CNN GLENTS監修者に聞くあえて背景知識を問う
テスト設計の意図とその有効性とは?

京都大学 国際高等教育院附属国際学術言語教育センター 准教授
笹尾 洋介氏

CNN GLENTSの監修者である笹尾洋介氏は、応用言語学(英語教育学)を専門としており、とくに英語語彙習得、教育文法、また評価論に関する研究を中心に行っている。これまで言語テストの開発や妥当性の検証を行い、国内外の学術誌から数多くの研究成果を発表している。このテストの有効性や大学生の英語教育の将来についてうかがった。

CNNのニュースでどんな英語力を測ることができるのか

—— 英語力を測るテストの素材にCNNのニュースを使用するメリットは何でしょうか。

まず最大のメリットは、ネイティブが聞いて知的にも面白い生の英語をテストに導入することによって、実際に使われている英語で理解力を試すことができる点です。

多くの方が「テストの点数は取れるのに、実際に英語圏に行ってみると全然聞き取れない」という経験をしていると思います。スタジオ録音された文法的に正しい英語を聞き、必ず答えのある人工的に作られたテストを解いていたのが一番大きな原因です。言い間違いや辞書にない表現、多少の論理的な矛盾があるというのは日常茶飯時なんです。

そういった英語が素材として扱われているということが一番大きなメリットだと思います。本当の意味でリアルな英語力、使える英語力が測れるのではないでしょうか。

—— ネイティブの英語は最初は聞き取ることが難しいですね。先生がニュージーランドのヴィクトリア大学に留学をされた際はどうでしたか。

ニュージーランドの英語にはニュージーランドのなまりがあります。典型的なのが、エの発音がイになるのです。ですから、数詞の10が「ティン(ten)」になります、「テン」ではなくて。ヴィクトリア大学に初めて行ったとき、事務の人に「ハウメニービッヅ(How many beds?)」と言われて、ビッドって何だろうと思ったことが記憶に残っています。発音やアクセントに対する許容度、寛容度がないと理解するのが難しくなりますね。

—— 2021年から始まった大学入学共通テストの英語の出題傾向を見ると、多様な英語への対応が求められていますが、CNNのニュースにおける多様性はどの点にあるでしょうか。

発音の多様性もそうですし、素材の多様性もそうですね。たとえば1人でしゃべる場合と2人で会話する場合では、使う英語も変わります。そういった意味で、このテストでは1人がしゃべるニュース英語もありますし、キャッチボールするインタビューもありますので、多様性が確保されていると思います。

さらに、一般的な英語の能力試験では、背景知識の影響をできるだけ受けないように問題作成されることが多いんですが、CNNのニュースを使ったこのテストではむしろ逆に、英語力と背景知識を総動員して問題に取り組んでもらうようになっています。

純粋な英語力というのは、実際の場では役に立たない場合があります。基本的に人間がコミュニケーションする上で背景的な知識を言語力と合わせて使うのは自然なことで、むしろそれを取り入れるほうが自然なのかなと思っています。

—— たとえば、留学されている方などにインタビューすると、「仕事の英語はできるが、同僚と飲みに行くと社会問題などを英語で表現するだけの知識がない」という方が結構いらっしゃいますね。

「英語がペラペラしゃべれて内容がペラペラな状態は避けなさい」ということを、私はよく学生たちに言っています。内容さえしっかりしていれば、ネイティブの方々もたどたどしい英語でもちゃんと聞いてくれます。私たちも、外国人がたどたどしい日本語でも面白いことを言っていたら聞きますが、非常に流暢であっても意味のないことを話されたら、苦痛ですよね。英語力ももちろん必要ですが、それを支える教養や知識がないと発信はできないと考えています。

国際人として活躍するために大学時代に身につけてほしいもの

—— 大学では学生にどのようなことを教えておられるのですか?
また、どのようなことを学んでほしいと思われますか?

英語の授業では「Academic Writing」を教えることが多いです。究極的には論文が書けることを目指しますが、そのステップとして、アカデミックなエッセイ、具体的にはTOEFL iBT®テストのWriting (independent task)のような300語程度で自分の意見を述べるエッセイを書きます。さらにもう少し進んで、他のリサーチを引用して自分の意見をサポートしながら議論していく「Citation」という書き方を教えるんですが、これらはHow-toです。むしろ重要なのは書く内容で、技術だけあっても書けません。

大学生として知ってほしい一般教養として私が特に伝えたいのが、クリティカルシンキング、批判的な思考力を磨きなさいということです。すべての理論やモデルは神聖なものではなく、仮の姿であって何らかの問題を抱えています。完璧なもの、絶対的なものはないので、うまくいかない例(反例)を見つけて、それを説明できるような理論やモデルを考える。また、多くの先行研究がありますが、それらに欠けている視点を探し出して多角的に考察する。これが批判的な思考です。

最近ではアクティブラーニングがはやっていますが、生徒ではなく先生がしゃべっていたら、それはアクティブラーニングではないのではないかというと私はそう思いません。先生がしゃべっていることがすべて正しいとは限らないので、たとえば、「先生の発言は間違っているんじゃないか」ということを頭の中で能動的に考えながら聞く。つまり、聞き手に回っていてもアクティブに学ぶことはできるはずです。逆に何も考えがない状態では自分の意見を言うことはできないので、ちゃんとものを考えるところから始めてほしいです。

母語=日本語を使って効果的に英語力を高める

—— 英語力を高めるにはどうしたらいいでしょうか?

ある技能に多くの時間を費やすことが、その技能を習得する上で一番大事だというTime on Taskの原則があります。プロ野球の選手でも、プロサッカーの選手でも、一流のスポーツ選手は他の人より練習量が多いのです。英語も同じく1つの技能なので、基本的にはどれだけやったかということが技能の向上に影響を与えます。英語を身につけるには、どれだけ英語に接したか、英語のインプットをどれぐらい理解したのか、という点が最大の要因になるのは明らかです。

一方で1980年代頃から、インプットだけでいいのかどうかという議論が行われてきました。大きなエビデンスとして示されたのが、カナダで行われた研究です。「話す」「書く」というアウトプットがなければ、文法など言語のある側面の習得が難しいことが示されました。

話そうと思って話せないと、「この単語は何だろう」「何と言えばよいのだろう」と調べますよね。自分が分からないことが分かるようになるというのがアウトプットの一番大事な利点です。また、他者からのフィードバックをもらうことで、自分の作った表現が正しいかどうかを確認(いわゆる仮説検証)することもできます。インプットを多くとることに加えて、「話す」「書く」機会も適宜設けることが言語学習では重要となります。

—— 効率を重視する受験英語の語彙学習では、英単語を見て日本語の意味を覚えるという単方向の学習に終始してしまい、日本語を見てすぐに英語を引き出せない人が多いようです。今、スピーキング力をつけるために日本語⇒英語という逆方向でのトレーニングの必要性が語られていますが、どう思われますか?

まず大きな方向性として母語、我々の場合は日本語になると思いますが、それを使って学習するのは極めて効果的だと思います。

皆さんほとんど覚えていないと思いますが、0〜2歳のときに日本語を初めて獲得するのは非常に大変な作業だったはずです。たとえば、コップに入った水が出されて「これは水です」と言われても、何も知らない状態からこの中の液体が水であるということを知るのはとても難しいです。「これは水です」と言われたときに「渡す動作」が「水」なのか、この「入れ物」が「水」なのか、「温度」が「水」なのか、「素材」が「水」なのか、「中身のこのたぷたぷ」が「水」なのか、というのが分からない状態で覚えるんです。

これを外国語学習でも行うのは非常に効率が悪いと思います。しかし、すでに身につけた母語を使って「水=water」と記憶すれば、単語習得の最初のステップとしては、とても簡単に覚えることができます。もちろんある単語を知っているということは、接辞表現やコロケーションなど意味以外の知識も含まれますし、日本語の「水」と英語の「water」は指示する内容が厳密に一致しない場合もあります。最初のステップとして母語を使用するのは効率的ですが、いつまでもそれにこだわるのではなく、インプットを多くとる中で知識を深めていくことが重要です。

最近の研究が示しているのは、先ほど言われたように「water→水」という覚え方だけでなく「水→water」という覚え方をすると、「話す」「書く」ときに使うのに効果的な記憶になると言われています。

英語を一度日本語に直して考えるのでは遅くなるので、最終的には英語を英語で理解できることが大事だと思います。ただ、一気にその状態に到達するのは難しいので、母語を活用しながらだんだん離れていく、自転車で言うと補助輪を付けてだんだん慣れていくようなイメージを持っていただくと良いと思います。最初のステップとして和訳・英訳をすることは一定の効果が期待できると思いますが、あくまで自転車に乗るための補助輪という位置づけが大事だと思いますね。

内容理解のカギは、語彙知識と音の変化への対応

—— 単語集などで語彙を自分の中に蓄えておくとニュースを理解する上で楽になるのではないかと思いますがどうですか?

素材を理解するのに一番大事なのが語彙知識と言われています。語彙知識が増えれば増えるほど、理解度が高まる。逆に語彙知識がないとかなり理解が制限されるということが分かってきていますので、テストの直前対策としては単語を覚えることが一番ダイレクトに効くのではないかと考えています。

また、単語は実際にしゃべるといろいろな音の変化が生じます。did youがdijuになるように、一番最後の音とその次の一番前の音がくっついてしまったり、音が消えてしまったりすることがあります。既存のテストではこのような変化が最小限になるように設定されていますが、CNNの生の英語では音が消えたり変わったりすることが多いので、どのように変わるのか、感覚としてつかむことが重要だと思います。

—— 音の変化に明確なルールはあるのでしょうか?

ルールはありますが、変化の仕方は方言ごとに違いますし、インド人、中国人、ベトナム人、日本人の英語にもそれぞれ癖があって、それぞれの英語でしゃべるので、スタジオ録音された英語だけでは太刀打ちできません。ですから、いろいろな発音を聞いて変化の感覚を身につけていただきたいですね。

また、日本語と同様に、英語でも韻を踏んで心地よく聞こえるものや、しゃれの効いた表現があります。英語の場合は特に強弱のリズムを大事にしていて、さらに言えば強弱のリズムが文法に打ち勝つ場合もあるんです。

たとえば、Money makes the mare to go.(金は牝馬をも動かす=地獄の沙汰も金次第)ということわざがあります。文法的にはMoney makes the mare go.が正しいはずで、toは不要ですが、to goにしたほうが強弱のリズムで発音しやすく心地よいので、この表現が残っていると考えることもできます。音の高低を大事にする日本語の母語話者はとくに、英語の強弱のリズムに慣れるために、自分でしゃべったり、発音を覚えたり、シャドーイングしたりという練習も大事になってきます。

—— ということは、自分が聞き取るためにもシャドーイングは有効ということですか?

シャドーイングはもちろん大事ですね。しゃべるためのトレーニングとしておなじみですが、私が個人的に大きいと思うのは聞き取りですね。「こういうふうに言うんだ」と自分で発音しながら聞き取る練習をするという意味で大事だと思います。

消失したり同化したりする音の変化も、強弱のリズムに合わせたほうが感覚をつかみやすいでしょう。この感覚がシャドーイングで分かるんじゃないかと思います。

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笹尾洋介Sasao Yosuke

京都大学国際高等教育院附属国際学術言語教育センター准教授。京都大学総合人間学部卒業(2005年)、京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了(2007年)。ニュージーランド ヴィクトリア大学ウェリントン校より博士号を取得(2013年)。応用言語学博士。2012年より豊橋技術科学大学総合教育院講師を務め、准教授を経て、2017年より現職。外国語としての英語教育を専門とする。とくに、言語テスト、語彙習得、教育文法、教材開発、学術目的の英語などに関する研究論文を多数発表している。

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