おもしろく源氏を読む
おもしろく源氏を読む
源氏物語講義
角田文衛 著 / 中村真一郎 著
定価: 1,056円(本体960円+税)
無意識の底のトラウマ(外傷)によって心を病む貴族たちの時代、平安時代とは、世界史的には〈古典時代〉であった。紫式部=藤原香子の、『源氏物語』を書きおおせた代償にさながら空?と化すことになった生を、この時代の中におき、この物語に現れる大路や邸宅やあるいは人物のモデルを考証する。そして、この物語の西欧へのさまざまな翻訳の試みをトレースしながら、世界の古代小説の最後に位置する『源氏物語』の〈小説世界〉をのぞく。
中村 そうすると、紫式部が『源氏物語』を書いていた当時の読者は、この物語の時代背景を、どれぐらいさかのぼったころだと思っていたのでしょうか。つまり、現代小説と思っていたんでしょうか。
角田 いや、歴史小説として受け取っていたんでしょうね。紫式部が書いた時代は、だいたい西暦紀元1000年ごろで、宇多天皇の時代が九世紀の末から十世紀の初めですから、彼女からみれば約百年から五十年前くらいの宮廷生活を書いたんです。