哺育器の中の大人
哺育器の中の大人
精神分析講義
岸田秀 著 / 伊丹十三 著
定価: 1,056円(本体960円+税)
意識としての人間の本質への問いは、フロイドという〈事件〉を通過することにより、実証的な拡りと深みを獲得した。自他未分化の桃源境にさまよう赤ん坊という人間の原点のイマージュが、共同幻想としての社会を逆照射する。人間という本来的に未熟である存在は、幻想という哺育器のなかでしか生きていけない。幻想の意味の解釈から、自我の構造分析をへて、日本人の精神のあり様を究明する、自己分析のディアローグ。
伊丹 じゃあ、日本人が集団的にファミリー・ロマンスになり、血統妄想を持つとすると、それはやはり、日本人の個人個人が自分のアイデンティティに不安を持っていることの反映なんですか?
岸田 それはそうでしょう。日本人の、日本国民全体としてのアイデンティティの不安定さがあれば、その国民の一人たる日本人の不安定さに繋がってきますから――つまり、いつもいうように、われわれは自分のアイデンティティを自分一人で持てるわけではないですね……