K-POPはなぜ世界を熱くするのか

  • K-POPはなぜ世界を熱くするのか
    K-POPはなぜ世界を熱くするのか
判型:四六判 / ページ数:240ページ / ISBN:9784255012124 / Cコード:C0036 / 発売日:2021/04/03

K-POPはなぜ世界を熱くするのか

田中絵里菜(Erinam) 定価: 1,870円(本体1,700円+税)

在庫: 在庫あり

BTSからBLACKPINK、NiziUまで、
Z世代を中心に世界を熱狂させるK-POP。
そのわけは、音楽でも、パフォーマンスでもなく、
5つの “バリアフリー”にあった。

お金:ライブに行くまではすべて無料
時間:いつからでも後追い可能
距離:どんなに遠くにいてもリアルタイムで参加
言語:どんな言語にも翻訳されるコンテンツ
制約:ファンがどんどんシェアして広めていく


K-POPはどうしてこんなにも世界中の人々を惹きつけているんだろう?
どんなふうに作られていて、どんな仕掛けによって広まっているんだろう?
世界中のファンが参加できる生配信アプリ「V LIVE」、予告のスケジュールを教えてくれる「ティザー表」、推しだけを1曲分堪能できる「ファンカム」、ファンが自腹で駅に出す「サポート広告」……ファンを虜にする多彩すぎる仕組みの数々。
K-POPのクリエイターたちが語るリアルな声とともに、プロモーションの視点から世界的なムーブメントを体系的にまとめた初の書籍。K-POPのすべてがこの一冊でわかる。


“K-POPの作り手”たちに韓国で直接インタビュー
音楽プロデューサー、ブランド戦略責任者、A&R、アートディレクター、MV監督、
ボーカルトレーナー、振付師、スタイリスト……

「出会う人はみな、私の同世代か、年下の大学生だった。そんな若者たちがメジャーシーンで制作に携わり、世界をリードしている。「若さ」は単に年齢的なことだけではなく、これまで積み上げてきたものを手放す勇気、良いと思ったものはすぐ吸収するハングリー精神、そういった感覚のことでもある。彼ら彼女らの「若さ」はどこからやってくるのだろうか。K-POPの制作現場から放たれる熱いエネルギーにもきっと「うねり」の正体はある。」(はじめにより)

目次

はじめに 

1| 「世界を熱くする音楽」が生まれる国

常に「パリパリ」変わり続ける 
国が整えたK-POPのインフラ 
ファンが自らジャックできる音楽チャート 
兵役がもたらす刹那的なアイドル 
K-POPに流れるじっとりとした情緒

2| 誰にでも開かれているK-POPの入口 

「お知らせ」しない公式アカウント:SNS 
K-POP特有のお祭り期間:カムバック 
じらして興味を引きつける予告:ティザー 
名刺代わりの3分映え映像:MV 
公演化する記者発表会:ショーケース 
「模倣」から生まれるオリジナリティ:カバーダンス 
見終わらないふろく映像:派生コンテンツ 
遊びに行ける「世界観」:ポップアップストア

3| ファンが自ら「広報」に変わる仕掛け 

推しのためだけに存在する共同体:ファンダム 
世界をひとつにした動画コミュニティ:V LIVE 
公式を超えるDIY字幕:ファンサブ 
代わりに営業してくれる社外広報:ホームマスター 
ファンが出資する応援広告:サポート 
「ポリティカル」に連帯するファンダム

4| 「K-POPグループ」の作り方 

デビュー前から完成型:練習生 
グループコンセプトの差別化:ストーリーテリング 
サブスク最適な「パッチワーク」音楽:ソングキャンプ 
フックソングとポイントダンスからの進化:振付 
舞台から出勤までコーディネート:スタイリング 
二度おいしいリリース形態:リパッケージ 
グッズ化するCD:所有と体験

5| K-POPの未来 

アイドルに求められるもの 
高まる「公正さ」への意識 
K-POPのグローカライゼーション

おわりに

著者紹介

  • 田中絵里菜(Erinam)
    1989年生まれ。日本でグラフィックデザイナーとして勤務したのち、K-POPのクリエイティブに感銘を受け、2015年に単身渡韓。最低限の日常会話だけ学び、すぐに韓国の雑誌社にてデザイン・編集担当として働き始める。並行して日本と韓国のメディアで、撮影コーディネートや執筆を始める。2020年に帰国してからは、フリーランスのデザイナーおよびライターとして活動し、のちに K-POP芸能事務所のクリエイティブディレクターへ。
    過去に『GINZA』『an·an』『Quick Japan』『ユリイカ』『TRANSIT』などで韓国カルチャーについてのコラムを執筆。韓国・日本に留まらず、現代のミレニアルズを惹きつけるクリエイティブやカルチャーについて制作・発信を続けている。

はじめに       

 2020年はK-POPがグッと広まったと実感した年になった。日本に帰国して久々に友人たちに会うと、みんなBTSの話をしてくる。これまでK-POPを聴いてこなかった人たちからも、BLACKPINKのNetflixでのドキュメンタリーやSuperMの「ミュージックステーション」出演について感想を求められた。このまえがきを書いている今もまさに、BTSがノミネートされたグラミー賞(「ベストポップデュオ/グループパフォーマンス」部門)の発表を待っているところだ。今年彼らはそのステージで単独パフォーマンスをすることも決まっていて、ネットでは部門でのアジア人初受賞になるのではとたいへん盛り上がっている。ほんの数年前までは地味にネットで調べてファン同士で情報交換したりと、サブカル的に楽しんでいたK-POPが、いまや日本のテレビや雑誌に当たり前に登場するどころか、こうして世界の大舞台に登場するまでになったのだ。

 BTSがビルボード・ホット100で1位を獲ったことやグラミー賞にノミネートされたことはとりわけ象徴的な出来事だが、ユーチューブの再生回数が1億回をゆうに超え、ワールドツアーを行なうグループがK-POPにおいてはもう珍しくないのを見ると、ファンは世界中に存在するのだと実感する。一方で、BTSが〝アジア人〞として歴史的快挙を成し遂げるたびに、「なぜK-POPはこんなにも世界を熱狂させるのか?」という問いが人々の中でどんどん膨んでいくのを感じた。

 圧倒的なパフォーマンスとヒップホップに裏付けられた音楽性が、楽曲に込められた若者の孤独を癒す等身大のメッセージが、グローバルを意識してインターネットを上手く活用した戦略が―と、これまで数多くの〝ヒットのヒント〞が与えられてきたが、往々にしてBTSのこれまでの軌跡を辿るにすぎず、その周囲に広がるK-POP全体のフィールドで起きている熱いうねりの正体は摑めそうで摑めない、そんなはがゆい感覚を味わっていた。

 K-POPはなぜ世界を熱くするのか―音楽評論家ではない私は、K-POPのその熱いうねりから音楽性やアーティスト性をいったん切り離してみて、ファンの中心となるZ世代(1997〜2000年以降に生まれた世代)をハマらせる仕掛けのほうに目を向けてみた。K-POPの「ムーブメント」はなにもいま突如として沸きあがったものではなく、それを底から支えてきた環境があったと考えたのである。それは、現代の消費を担うZ世代との親和性の高い、「誰でも」「いつでも」「お金をかけずに」「ネットさえあれば」ハマることのできる、「バリアフリー」な環境である。

 そうやって最初の一歩を軽々と踏み出してファンになれば、今度はネットでの疑似体験を埋め合わせるかのように「体験」を求め、それを「シェア」する。同じ価値観や嗜好を持つコミュニティとつながり、その一員として、自分たちの好きなアイドルを広めるために、ストリーミング再生や投票、ハッシュタグ投稿といった一連のファンダム活動を行なうのだ。自身が「発信者」となるのもK-POPファンの大きな特徴で、彼ら彼女らは自らコンテンツを翻訳し、グッズを制作し、はたまたイベントを開催する。ファンが広報担当にもなって「アイドルを売って」いった先に、K-POPはいまこうして世界の大衆に到達した。

 私がK-POPと出会ったのは2009年、デザイナーの友人からWonder Girlsの「Tell me」のMVを教えてもらったときだ。ユーチューブのリンクを開いてみると、「あれ? 思っていた『韓流』と違うかも?」と感じ、急いで新大久保に向かった。そこで目にしたSHINeeのアルバム『Romeo』の洗練されたイメージに衝撃を受けたのが、K-POPのクリエイティブにハマる入口だった。そのアルバムのアートディレクションをしていたミン・ヒジンさんはまだ若い女性でありながらすでにK-POPの第一線で活躍していて、写真を手掛けたLessさんは他にも奇抜な作品を発表していた。

 居ても立ってもいられず、Lessさんの写真が掲載されたカルチャー誌『OhBoy!』を韓国から取り寄せて眺めながら、初期衝動そのままに渡韓を決意した。語学勉強に費やす時間さえ惜しかったので、外国人の私をすぐに雇ってくれるところを探し、縁あってその雑誌社『OhBoy!』でデザイナーとして働き始めることになった。韓国語のデザインソフトと格闘しながら働く日々が始まったのだ。しばらくすると日本のメディアから「現地の声を知りたい」という依頼をいただくようになり、取材や執筆の仕事が増えた。K-POPアイドルへの取材も行なったが、企画に自由度のあるときは、デザイナーやMV監督など「K-POPの裏方」と呼ばれるクリエイターたちに直接話を聞きにいった。「世界を魅せる音楽」が、どんな人たちによって、どんなふうに、どんな戦略のもとで作られているのか、自ら解明したかったのだ。

 出会う人はみな、私の同世代か、年下の大学生だった。そんな若者たちがメジャーシーンで制作に携わり、世界をリードしている。「若さ」は単に年齢的なことだけではなく、これまで積み上げてきたものを手放す勇気、良いと思ったものはすぐ吸収するハングリー精神、そういった感覚のことでもある。彼ら彼女らの「若さ」はどこからやってくるのだろうか。K-POPの制作現場から放たれる熱いエネルギーにもきっと「うねり」の正体はある。「そもそもK-POPとは何か?」という根本的な疑問への答えがそこに潜んでいないかと期待して、実際にK-POPシーンを作り出している現地の作り手たちに聞いた話を織り交えながら、以下に少しずつ紐解いてみたいと思う。


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