|  技術翻訳のプロ・曽我孝幸、E-DIC を使う(1) | 
                       
                      
                        |  第1回 「辞書は翻訳の命綱」 | 
                       
                    
                   
                   
                  
                    
                      
                        ★翻訳と辞書の切っても切れない関係 
                         今回、縁あって朝日出版社の『E-DIC英和 |和英(イーディック)』の評価をさせていただくことになった。 
 普通なら辞書が2冊買えるかどうかという価格でこれだけの辞書が使えるのだから、いろいろな立場の人がE-DICに関心を寄せていると思う。私は翻訳を生業としているので、まずは翻訳と辞書の切っても切れない関係からお話ししたい。 
 
 翻訳は、英語さえできれば容易で取っつきやすい仕事だと誤解されているように感じることがある。しかし、いざ訳せといわれるとこれが難しい。実際、読むと訳すでは大違いである。 
 そんなことはない。英字新聞もペーパーバックもすらすら読めるのだから」「英検1級なんだから」とお思いの向きは、ぜひ挑戦されたい。 
  
 英文を読むだけなら「意味」がわかりさえすればいいが、翻訳では、それを適切な「表現」で言い表さなければならない。翻訳をしてみると、「なんと言えばいいのか」という壁にしばしばぶつかるのである。 
 
                        ★翻訳上達の鍵はボキャブラリー  そこで、「翻訳上達の鍵はボキャブラリーである」と言える。自分が日常使っている語彙は、実は意外に少ない。しかし、翻訳は他人の言葉を扱う作業である。他人の語彙や語感は自分とかなり異なっているものである。しかも外国語である。翻訳の質の差は、結局ボキャブラリーの差なのである。 
  
 だからといって辞書を一冊丸暗記しても無駄である。むしろ「個々の辞書は万能でない」と理解すべきである。翻訳とは、ボキャブラリーを探し、集め、確かめる作業なのである。 
 
 最近では、辞書代わりのインターネットの使用も増えている。ネット上には専門家の書いた文章が多数アップロードされており、最新の言葉を探すのに使うと便利である。しかし、誰でもアップロードできるという性格上、当てにならない情報、でたらめな情報もたくさんある。できるだけ信頼できるソースを見極めることが重要である。インターネットを辞書代わりに使うには、良い情報を選別する目が必要とされる。 
 
 私は、フリーランスで翻訳するほかに、某翻訳会社でチェッカーもしている。納品された翻訳に稚拙な部分があれば、容赦なく修正を加えている。チェックをしていると、うまく訳したつもりでも「調べが足りないなあ」と思われる単語や表現はすぐわかる。勝手な解釈で訳文を「創作」する人は嘘つきである。お金をもらっているプロなら、調べる手間を惜しんではいけない。 
 
                        ★辞書は翻訳の命綱  では、どうすればいいのか。翻訳ではまずはやはり辞書、それも複数の辞書である。還暦を迎えられた大先輩の言葉を借りれば、「辞書は翻訳の命綱」である。その大先輩が、辞書と首っ引きで原稿用紙に訳文を書き込んでいた頃の苦労を語ってくださったことがある。 
  
 だが、いま原稿用紙はワープロに変わり、辞書の電子化も進んで驚くほど便利になった。電子辞書にも様々な形態があるが、現代の翻訳者は一日中パソコンに向かっているのだから、とりわけパソコンのキーボードで直接検索でき、複数の辞書を同時に引くことができるHDインストールタイプのCD-ROM辞書は欠かせない。 
 
 大先輩には叱られそうだが、私は学生の頃、辞書を引くのがおっくうだった。しかも、キーボードを打つほうがペンで字を書くより何倍も楽である。パソコンと CD-ROM辞書がなかったら、私は翻訳家になれなかったに違いない。 
 
 さて、E-DICβ版のインストールはあっさり終了し、再起動の必要もなかった。次回は、実際に使いながらの感想などをお伝えしたい。 
                         
                        
                          
                            
                              | (そが・たかゆき)1962年生まれ。大学卒業後、半導体製造装置メーカー勤務を経て、95年にフリーランスの翻訳者として独立。主に電気・コンピュータ分野を専門とする。現在、某大手翻訳会社で特許翻訳および品質チェックに従事もしている。 | 
                             
                          
                         
                         
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