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TED Books


判断のデザイン
判断のデザイン

チップ・キッド
坪野圭介 訳

明瞭(クリア)か不可解(ミステリアス)か、それが問題だ
何事も第一印象がすべて。その見た目をどう判断し、どうデザインすれば良いだろう?
村上春樹作品(アメリカ版)の装幀でも知られる「世界一有名なブックデザイナー」が導入するのは「!/?」という基準だ。
第一印象に必要なのは、明瞭さ(!)か、不可解さ(?)か、その両方か。
ダブルクリップに地下鉄のポスター、ATMにタバコのパッケージ……身の回りにある様々な実例から、自らのブックデザインへの応用例まで。
明瞭/不可解の尺度で世界の見方を再定義する、デザイン = 認識の技術。

2017年6月28日発売
B6判変型/148ページ
本体1,700円+税

各オンラインショップにてご購入いただけます。
Amazon.co.jp

本書のインスピレーションとなった19分間の講演は、TEDのウェブサイト TED.com で無料で見ることができます(日本語字幕あり)。



Chip Kidd
チップ・キッド(Chip Kidd)
ニューヨーク在住のデザイナー/作家。1986年からアルフレッド・A・クノップ社でブックカバーのデザインを手がけ、 アメリカのブックデザイン・アートに革命をもたらしてきた。
ジョン・アップダイク、オリヴァー・サックス、マイケル・クライトン、オルハン・パムク、村上春樹など、仕事を共にした著名作家は多数。
コミュニケーション・デザイン部門でナショナル・デザイン・アワードを受賞。国際写真センターのユース・オブ・フォトグラフィー・イン・デザイン・アワードも受賞している。
小説作品に、『The Cheese Monkeys(チーズ・モンキーズ)』『The Learners(学びし者たち)』がある。プリンストン大学、イェール大学、ハーバード大学、RISD(ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン)など、 数限りない場所で講演を行なっている。
2012年のTEDトーク「笑い事ではないけど笑える本のデザインの話」の再生回数は130万回を超えた。Twitterアカウントは@chipkidd





坪野圭介(つぼの・けいすけ)
1984年生まれ。東京大学人文社会系研究科博士課程単位取得退学。東京大学大学院特任研究員。専門はアメリカの都市文化・文学。訳書に『ジャングルの極限レースを走った犬 アーサー』(早川書房)、『サリンジャー』(共訳、KADOKAWA)など。



「結びつける」ジャッジ 寄藤文平

  「ジャッジ」は、いつでも僕の心を重くする。たとえば、(あくまでたとえ話だが)絶対に遅刻できない打ち合わせの直前に彼女が電話で別れ話を切り出してきたときとか、(あくまでたとえ話だが)ディズニーランドの長い行列の途中で尿意がどうしても抑えられなくなったときとか、(あくまでたとえ話だが)デザインの締め切り当日になってもクソみたいなアイデアしか思いつかないときとか、そこに「ジャッジ」が現れる。「ジャッジ」はさまざまな事情や思惑が衝突する三角波のようなもので、僕はそこに浮かぶ船みたいに無力だ。みんな「正しいジャッジを積み立てれば人生はうまくいく」と考えているようだが、本当にうまくいっている人生に「ジャッジ」など存在しない。

 この本の原題は「Judge This」。なんて気の滅入るタイトルだろう。それが僕の第一印象だった。しかし読み進むうちに、この本の「ジャッジ」は単なる「ジャッジ」ではないとわかった。というか、そもそもこれは「ジャッジ」の本なのだろうか。デザインという枠におさまる本でもない。たぶんこの本は「視点」に関わることを伝えるための本だ。

 ボールを上に投げれば下に落ちてくる。その様子を想像するとき、僕たちはボールを横から見ている。もしも同じ運動を真上から見れば、ボールは大きく膨らんで小さく縮むだろう。「上/下」という基準は横からの視点とセットだし、「大/小」という基準は真上からの視点とセットだ。ものごとを「ジャッジ」する基準は、それをとらえる視点を同時に表すのである。この本の骨格となる「!/?」という基準は、どのような視点を表しているだろうか。そう考えると、著者の意図がより正確に理解できると思う。

 僕たちが「世界」と呼んでいるものは「ジャッジできる」領域を貼り合わせたものだ。「善/悪」「正/誤」「有/無」「優/劣」といったさまざまな基準が用意されていて、僕たちはそれらを都合よく組み合わせながら「自分はどのような人間で、どのような世界に生きているか」といったことを確認している。しかし本当のところ、世界はそんなに単純ではない。正しい善人が間違ったことをしたり、優れた悪人が正しいことをしたり、僕はウンコしながら世界平和について考えることがあるし、あるとき、友人の家に遊びに行ったら彼のパートナーはフワフワのかわいらしい白猫を撫でながら人間を引き裂くエイリアン映画を見ていた。

 何が言いたいかというと、「ジャッジできる」世界と「ジャッジできない」世界が重なり合ったところに僕たちは生きているということだ。そういうあり方をそのままに、率直に世界をとらえるにはどうしたらいいだろうか。そう考え進めてみると「!/?」という基準の意味が浮き上がってくる。この基準が表しているのは、「ジャッジできる」世界と「ジャッジできない」世界の境界に立って、これまで自分が「世界」だと思ってきた基準をゼロから問い直す視点だ。自分自身の真新しい基準によって「世界」をとらえようとする、つまり創造的であろうとする人の視点だと思う。

 僕は、「ジャッジできる」世界に安住するのでもなく、「ジャッジできない」世界に没入してしまうのでもなく、その狭間に身を置くことによって持ちうる、鍛えの入った視点というものがあると思う。単なる経済活動でもなければ純粋なる芸術活動でもない、デザインという領域だけに宿る創造的な視点というものがあると思う。著者は「!/?」という基準によって、その視点を明瞭に表現している。そういう視点を持つことがいかに知的で、野生的で、矛盾していて、若干アホで、しかし鋭い洞察に満ちた、ユーモアにあふれる、朗らかなものであるか。この本はその不可解さと愉しみを教えてくれる。

 近年、情報技術の発達によって「ジャッジできる」世界ばかりが急速に拡大していると感じる。新鮮な驚きをもって伝えたい体験も、インターネットにアップロードした数秒後には「いいね!」ボタンで「ジャッジ」されてタイムラインの彼方に消えてしまう。仕事では「KPI」や「生産性」といった余白のない基準が次々と現れて、瑞々しいインスピレーションや熱のこもったパッションが、清潔な「ジャッジ」の法廷で冷たく干からびていくのを見る。しかも最悪なことに、デザインという領域はそういう「ジャッジできる」世界の尖兵になろうとさえしている。

 僕はこの本の源流に、そういう方向性に対する著者の危機感を感じる。しかし、仮に「ジャッジできる」世界を否定すればデザインという領域の創造性は失われ、「ジャッジできる」世界を否定するための「ジャッジできる」世界が生まれてしまうだろう。僕はこの本の素晴らしさは、「ジャッジできる」世界の枠組みの中で「ジャッジ」することによって、逆説的に「ジャッジできない」世界を取り戻すというアイデアにあると思う。「!/?」という基準は、両者を分かつためではなく繋ぐための発明であり、「Judge This」とは「これを裁け」ではなく「これを結べ」と言っているのだ。


よりふじ・ぶんぺい 1973年長野県生まれ。1998年ヨリフジデザイン事務所、2000年有限会社文平銀座設立。広告やプロジェクトのアートディレクションとブックデザインを中心に活動。








RyanLash
TEDブックスは、大きなアイデアについての小さな本です。一気に読める短さでありながら、ひとつのテーマを深く掘り下げるには充分な長さです。本シリーズが扱う分野は幅広く、建築からビジネス、宇宙旅行、そして恋愛にいたるまで、あらゆる領域を網羅しています。好奇心と学究心のある人にはぴったりのシリーズです。TEDブックスの各巻は関連するTEDトークとセットになっていて、トークはTEDのウェブサイト「TED.com」にて視聴できます。トークの終点が本の起点になっています。わずか18分のスピーチでも種を植えたり想像力に火をつけたりすることはできますが、ほとんどのトークは、もっと深く潜り、もっと詳しく知り、もっと長いストーリーを語りたいと思わせるようになっています。こうした欲求を満たすのが、TEDブックスなのです。




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