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 技術翻訳のプロ・曽我孝幸、E-DIC を使う(2)
 第2回 「技術翻訳に強い E-DIC」

★訳語選択の心得
 備えあれば憂いなし ―― 翻訳者にとって、専門用語辞典は防災用品に似ている。

 技術翻訳に必要な専門用語には、一期一会のものが多い。私は、辞書になく苦心して調べた用語を記録しているが、10 年間で再び役に立ったものは数えるほどにすぎない。だからこそ、手元の専門用語辞典が多いほど、調べものが見つかる確率は高くなる。

 しかも、個々の辞書は万能でない。たとえ収録語数を誇る辞典が一冊あっても、それだけに頼り切るのは好ましくない。多くの情報を総合して、その分野の大多数の人に理解される最大公約数的な訳語を選択するように心掛けるべきである。

 同時に、特許など公文書の翻訳では、使用した用語の出典を問われることがある。インターネットを使用するなら、権威ある文献など信頼できるソースを見極める目が必要である。

 専門用語辞典のコレクションには『E-DIC』を加えたい。たとえば「field」という単語は分野を問わず頻出するが、これを『E-DIC』で検索すると、[見出し+例文]でなんと 2075 件もヒットする。かなり特殊な用語もあるので、いざというときに心強い。

★他の辞書を圧倒、E-DIC
 ところで最近の業界では、翻訳者も分野をあまり選り好みしていられない。たとえば医療用機器の電子化が進み、電気やコンピュータを専門とする私のところにその翻訳の依頼がくる。医学は専門外であるから、当然、頻繁に用語辞典のお世話になる。

 『E-DIC』には、医学用語が豊富に収録されている。「epidural」を調べてみた。『リーダーズ+プラス』『ランダムハウス』共に2件、『英辞郎』で17件の熟語があるが、『E-DIC』 では30件もヒットした。

 専門外の高価な医学用語辞典は購入をためらうが、リーズナブルな値段の『E-DIC』がそれを補ってくれるのは頼もしい。

★専門用語より訳出の難しい複合語
 調べものでは、定着した専門用語は容易である。実際には、どのような訳語でも付けられる単なる複合語のほうが、専門用語よりもずっと厄介なことが多い。

 「dynamic」や「high-speed」などの形容詞が付いた複合名詞に「~な」を入れるか否かといった問題の他に、単なる複合語かと思ったら、業界で専門用語に準じて言い習わされている言い方があったりする。それを外した訳語をつけると、非常に格好悪い。その上、個々の単語自体はありふれているため調べにくい。

 医薬分野の「infusion test」を訳したいが、『医学英和大辞典』にも『英辞郎』にもなく、インターネットでも訳語を特定できなかった。しかし『E-DIC』では、4件もヒットした。医学の分野なので、

  ●histamine infusion test
  ●ヒスタミン注入テスト

 という検索結果から類推して訳語を「注入テスト」と決めた。結局は文字通りの訳となったが、調べて得た結論であるところに意義がある。

 なお、『E-DIC』では様々な音訳にヒットすることがある。
 
  [例] semantics
  (シマンティックス、セマンチクス、セマンティクス、セマンティックス)

 これは辞書数が多い副作用であると割り切り、他のソースや経験を活用して選択しよう。

 『E-DIC』は、用例集としてのポテンシャルも高い。それについては次回に譲ることにする。

(そが・たかゆき)1962年生まれ。大学卒業後、半導体製造装置メーカー勤務を経て、95年にフリーランスの翻訳者として独立。主に電気・コンピュータ分野を専門とする。現在、某大手翻訳会社で特許翻訳および品質チェックに従事もしている。